| 桜井建男さんに聞く(静岡空港に反対する県民の会事務局長)かけはし2009.9.28号 |
| 新知事が直面する開発県政の行きづまりにどう切り込むか |
静岡空港が開港して三カ月になるが、以前から指摘された問題が次から次へと明らかになってきている。とりわけ静岡県が出した需要予測は完全に破綻しただけではなく、運航の半分近くを占める日本航空(JAL)が静岡空港からの撤退を表明した。空港問題は一気に新しい局面に突入している。さらに沼津鉄道高架線工事の強制収用などについて静岡空港に反対する県民の会事務局長の桜井建男さんに聞いた。
あちこちからかき集め
た税金で赤字を穴埋め
――静岡空港が開港して約三カ月になりますが、空港をめぐる問題は今どうなっているのか聞きたいのですが。
先日、六〜七月の静岡空港就航便の利用実績が明らかになりました。国内線の二カ月間の搭乗者数は六万二千二十八人(これは後に述べる7月23日に就航したFDAも含まれています)で、一年間の推計でも三十七万人にしかなりません。県が開港前に需要予測として出していた数字が百六万人ですから予測の三五%です。
静岡空港における国内線の両軸と「期待」されたのが札幌線と福岡線です。札幌線は十二万四千人とANA・JAL両社の見込み通りですが、二千二百メートル滑走路であったにしろ需要予測の二八%です。他方、福岡便は「火の車」です。六月は六一・八%、七月は六三%です。
静岡県は福岡線を札幌線と並ぶ運航上の軸にするために開港にあたって搭乗率が七〇%を下回った場合、一座席当たり一万五千八百円を補てんする「搭乗率保証」をJALとの間で結びました。乗客数がこのままだと静岡県は年間三億五千万円もの保証金をJALに支払うことになります。開港前のアンケートで企業側からの声として「利便性がない」「新幹線で間に合う」と出されていたにもかかわらず、これを無視したツケが出て来ているわけです。休日と比較して平日の利用者が少ないというのは「ビジネスマン」が使っていないということであり、かつ休日の利用者もその多くは開港前に計画されたツアー客で「開港の熱」が冷めるこれからは減ることはあっても増えることはありません。したがって今出ている数字は悪くなることがあっても良くなるはずはないと思います。
国際線は「開港のご祝儀」として上海線、ソウル線、台湾線のチャーター便がありましたが二カ月で二万七千人です。年間にすると十六万人で需要予測の五〇%にしかなりません。このことは、たえず定期便の就航が見送られ、不確実なチャーター便に依存することになり、上海線やソウル線は減便の危機にさらされることを意味しています。
前に述べた七月二十三日に就航したFDAとは民間会社スズヨの子会社が運営するフジ・ドリーム・エアラインのことであり、鹿児島線、小松線、熊本線に就航している一機当たり七十五座席の小型機です。搭乗率はそれぞれ約五八%、四七%、四〇%と低調で目標の「百六万人」を押し上げる力にはなっていません。
着陸料は、小型機は中型機の三分の一ですが、毎日離発着するわけですから空港収入のほとんどを占める着陸料の底上げには若干寄与しています。加えてFDAの整備の一切はJALにまかせているので、JALが静岡空港から逃げ出さない役割も担っていると言えます。FDA自身は赤字でも、空港の存続に役立てばいいというのが親会社スズヨの方針です。スズヨは静岡県の清水、御前崎などの港湾の荷揚げを一手に引き受けている企業です。それは港湾利権を一手に握っているということでもあります。県がカネを出して港湾の工事を行い、それを使ってスズヨは儲けているのだから典型的な「官民ゆ着業者」です。加えて静岡県の港には全港湾という労働組合がありません。これもスズヨの圧力の結果です。港湾で儲けた利権の一部を「空のFDA」で県に返すということに過ぎません。
空港会計の独立会計化
と県民への公開を要求
この二カ月で明らかになったことは空港の唯一の収入源である着陸料が年二億円を下回ることです。それとは反対に支出は人件費、宣伝費、運営費で十七億円が固定費として出ていくだけではなく、工事費として起債された五百六十億円を毎年二十億円ずつ返済していかなければなりません。その他に空港会社に年利一%の安い利子で貸し付けた三十億円が計画通り返済される見通しが全くたっていないということです。
「県民の会」は六月の開港までは「空港工事の中止」を主張してきたましたが、現在の要求は「空港会計を独立会計として四半期ごとに決算し、県民に公開せよ」ということです。これまで県が示してきた数字はいかに「デッチ上げ」であり、県民を欺くための詭弁であったかということは明白です。今ならまだ引き返すことができるし、休航・廃港も可能です。正確な数字を県民の前に明らかにさせることが何よりも重要だと考えています。
新知事も財界・企業との
全面共存態体制を維持
――石川知事が辞任し、開港とともに民主党の川勝が知事に就任しましたが、彼が就任したことによって何か変わりましたか。
民主党は「戦略」という言葉が好きなのか、川勝知事も就任早々「空港の戦略会議」の結成をぶち上げました。しかしそれは空港政策の抜本的見直しを図ろうとするものではなく、実際は石川のものまねで石川辞任で中止になっていた「トップセールス」や開港後も乗客確保のための「富士山静岡空港」のキャンペーンを継続するということに過ぎませんでした。
唯一実質的な仕事は、選挙戦の中で掲げた「搭乗率保証」の見直しだけです。これとて県の空港部が敷いたレールに沿って、搭乗率が七〇%を割らないために、福岡線を中型機から小型機に変更するというだけのものです。二百人乗りで六〇%だとすると七十五人乗りになると百%を超えるから「搭乗率保証」がいらないというマジックです。
しかしこの方法は保証金は支払わなくてもいいが、着陸料は三分の一に減少するわけですから空港の「赤字構造」は一向に改善しません。
日航は〇九年四〜六月期の経常赤字が九百九十億円と発表し、銀行からの融資の見返りとして羽田―沖縄線というかつてのドル箱線の減便を含む赤字十六路線の廃止・減便を発表しました。次の局面では静岡の福岡線がターゲットになってくることは明白です。新潟空港では航空会社のシベリア線などの廃止の動きを阻止するために県民から総スカンを受ける「搭乗率保証」ではなく「着陸料」や「サービス料」の値下げ、無料化を打ち出しましたが、静岡空港も近いうちにこうなるのではないかと思います。
八月二十七日、滑走路が二千五百メートルとなり「完全空港」となったのですが、この直前静岡空港の杜撰な工事を象徴するような事件がありました。八月七日、国交省が二千五百メートルで滑走路を運用するために最終検査をしたら、制限表面に再び障害物件が見つかったのです。かつて石川知事は「測量して以降、立ち木が伸びたから」と発言してひんしゅくを買ったが、今度は本当に立ち木伐採した後に、竹が三カ月で基準以上に伸びてしまったのです。国交省は「このままではだめだ」と県に通告したが、空港部長は「現場解決」の一点ばりで知事には報告しませんでした。しかし「完全空港」直前の八月二十日過ぎにこの件が知事の耳に入り、川勝知事と副知事が地権者の大井さんに頭を下げに行ったのです。
大井さんは「空港には反対だが、運航の邪魔はしない」、「県は今日まで過分収用を認めながら、そのデータは公表しないし責任問題も回避している」、「土地収用法の適用には厳格な規定があり、個人の権利を一方的に奪う代わりに余分な土地収用は厳しく禁じている。ことは『測量ミス』や『修正間違い』で済む問題はない」、「過分収用の面積・図面を公表するというなら、竹の伐採に応じる」と発言すると、川勝知事は県庁の空港部に電話し、九月二十日までに公表すると回答した。しかし空港部長は「これを出すと裁判に敗ける」とか「現場の責任問題が出てくる」などと繰り返しています。
民主党の川勝が知事になったのは旧来の保守政権に対する不満の風に乗ったもので、全く路線的斬新性はない。県民の最大の懸案事項である県財政の赤字に対しても「年内をかけて検討する」と繰り返すばかりでなんら新しい方向性を提示していない。その意味では「石川県政」の踏襲であり、石川県政の背後に存在した財界・企業とは全面的な共存体制の維持とみて間違いないでしょう。
この典型的なものが「沼津鉄道高架事業」(注)に対する対応です。この事業主体は静岡県であるにもかかわらず県は一切表面には出ず沼津市にまかせ切りです。こうした川勝知事の沈黙の中で栗原沼津市長は、九月中にも「三十五条調査」(土地・物件の調査・測量)という強制収用に乗りだすための「看板」を立てました。この事業の全用地の三〇%を五十一人の反対地権者が所有しているにもかかわらずです。三〇%以上の未収用地が残っているのに強制収用するというのは前代未聞です。ここでも財界・企業に対する配慮が見え隠れしています。
乱開発反対の共闘へ県内各地の運動が合流始める
――今後の闘いについてはどのように考えていますか。「県民の会」の方針が決まっていましたら話してください。
五月三十一日に「ダムの不必要性・危険性を訴える太田川ダム研究会」「浜岡原発を考える静岡ネットワーク」「沼津市の鉄道高架事業に反対する地権者の会」「空港はいらない静岡県民の会」の四者主催で、「チェンジ!静岡県政―石川県政16年の隠蔽・腐敗体質を斬る―」の集会を開催しましたが、これに「伊豆半島の風力発電―健康被害者の会(仮)」が加わる五者で九月十四日に県知事に対して申し入れ行動をすることを確認しています。
残念なことに六月の県知事選では闘う側の代表を候補者にして選挙戦を闘うことができませんでした。このままでは静岡空港の開港に続き沼津鉄道高架事業の強制収用、浜岡原発のプルサーマル導入、伊豆半島の七十基の風車建設と個別に分断されたまま突破される危険があります。これを阻止するために闘う側が単に意見の交換という水準を超えて、運動を共有し共闘していくことが重要だと考えるようになりました。県知事選を闘えなかったことは重要な教訓になりました。もうひとつの契機は八月十一日の駿河湾を震源地とする震度6弱の地震でした。この地震では東名高速の土砂崩れ以外に大きな被害は幸いありませんでしたが、いずれの闘争課題も大災害と隣り合わせだということが明らかになりました。
浜岡原発を考える静岡ネットワークは、地震直後ただちに県と中部電力に申し入れを行いましたが、未だなしのつぶてです。
太田川ダムでは、五月三十一日の集会でダムに亀裂が入っていることが報告されましたが、その後専門家が調査に入るとダム周辺での土砂崩れも見つかり、さらに県が各市町村に水のカラ売りをしている実態も明らかになりました。カラ売りの契約を結び水を各市町村に供給しているようにみせる不正です。水は余っているのです。「今度八月十一日のような地震がきたら」と周辺住民に大きな不安が広がっています。
沼津では原地区の「貨物駅に土地を売らない地権者の会」の訴えが沼津市内全域に広がり、今春以上に支援の輪が広がっています。六月七日、高架事業反対のデモに始まり大々的な現地行動を今秋沼津で行うことが決まっています。
「県民の会」は十月二十九日の事業認定取消訴訟に全力で取り組んでいます。この日が結審の予定なので八月末には需要予測の問題、測量における〇三年と〇八年の誤差問題、過分収用、さらに空港予算問題と空港の矛盾を全面的に明らかにし、いかに静岡空港が公共性に欠け、土地の有効利用とはほど遠く、事業予測を裏切っているかを暴露する書面を裁判所に提出しました。
九月十四日の四団体の共闘申し入れは、今秋の共同闘争の第一弾です。
これら静岡における闘いは、同時に今日成立しようとしている「鳩山連立政権」との闘いの一部だと思っています。民主党は群馬県の八ッ場ダムの中止を宣伝しても、より危険な太田川ダムは維持しているように、その時々、その場所で政策は違い一貫しておりません。中止も推進も住民の意志を無視した「人気取り」のように感じられます。明らかなのは大企業・資本の側に立ち、県民、住民に背を向けているということです。その点で静岡空港に反対する闘いは、また新しい政治的領域に踏み込んでいると思います。今後とも支援をよろしくお願いします。
(注) JR東海道線と御殿場線が沼津市の中心部を横断しており、そのため中心市街地は南北に分断される形になっています。この解決のために高架線化し、JRの貨物駅も原地区に移転させようというのが、「沼津鉄道高架事業」です。この工事は静岡県東部地区の財界や企業、とりわけ建設企業などから二十年以上も前から提案されていますが、多くの立ち退き問題、さらには他の建設方法が検討されないまま提案された結果、住民に反対・拒否された経過があります。静岡県も沼津市も財政赤字に苦しんでいるのに、事業予算規模は千九百億円(全体では5000億円とも言われている)という巨額になります。しかし県や市は住民に相談することなく一方的に事業計画を発表しました。この結果、市街地中心部住民の反対運動だけではなく、新貨物駅の予定地にも反対運動が広がっています。さらに、高度成長時代に「沼津火力発電所反対闘争」を展開した闘争経験豊かな住民も合流し始めています。
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