安部誠さん(東京管理職ユニオン副委員長)に聞く (上)
「追い出し部屋」での抗戦から 労働現場で何が起きているのか
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安倍政権の「成長戦略」の中で資本家たちがねらっている大きな課題の一つに「解雇規制の緩和」がある。競争力をアップさせるために企業の雇用責任を免除し、いつでも解雇できるようにする。それはすでに「ブラック企業」として大きな問題になっている。東京管理職ユニオン安部副委員長に話を聞いた。(編集部)
「失業率低下」
報道は無意味
――アベノミクスによって、景気が回復し、労働条件も良くなっているなどと報道されていますが。
ちょうど一カ月ほど前に、総務省の統計が出て、『朝日新聞』がリーマン以前に完全失業率が戻ったということで、それは良いことだという記事があった。東京新聞から『朝日』がこう言っているがどうかという取材がきた。
まず、失業率三・九%は少ない数字だとはいえない。管理職ユニオンができた一九九三年、二%台半ばを超えたら、失業率が増えたと言われた。一%は七〇万人。では、どういうふうに評価すればいいのか。比較でいえば、労働者の状態が良くなっているかといえば良くなっていない。軸を二〇年前にすえると、雇用の劣化が著しいということだ。非正規労働者は一九九二年におおむね一〇五〇万人、だいたい二一%ぐらい。それが二〇一二年の総務省の統計によると、二一〇〇万人、働く労働者の三八%。
単に失業率が三・九%でリーマン以前に戻ったからといって、改善されたとは、単純にはいえない。リーマンショック及びその直前の時期は、偽装請負、日雇い派遣との闘いの時期だ。どう考えても良い時期ではなかった。これがひとつ。
視覚的に分かりやすくいえば、最賃が少し上がった。現瞬間でいえば、東京都の最賃は八五〇円。今度八六九円になる。募集の時、時給が書いてある。最賃での募集が多い。セイユーも八五〇円。二〇年前のことを考えると、最賃で募集をかけている会社はあまり多くなかった。つまり企業のなかで、最賃で募集するのが格好悪いというモラルがあった。それが今はない。パートといっても生活の足しにするというのではなく、それで生活する人が増えている。時給八五〇円というと年収で一七〇万円。そうすると東京ではひとりでは生活できない。
少し前、コミュニティーユニオン関係ではいつでもどこでも一二〇〇円というスローガンを掲げた。それでも年収二四〇万円だ。最賃が仮に一〇〇〇円でも、大都市では食べていけない。地方ではもっと最賃が下がっていて、食えないのでそこからいなくなってしまう。地域が荒れる。そこまで考えていかないと、単に失業率が一〇年ぶりに四%台を下回った。そういうことを言ってもそれに何か意味があるか。
ブラック企業
とは何ものか
――ワタミなどブラック企業が取り上げられています。安部さんも取材に応じている『ブラック企業』(古川琢也著、晋遊舎新書)が最近出版されました。そこで、ブラック企業の特徴を次のように書いています。@酷使するA簡単にクビを切るB賃金を搾取するCハラスメントの多発D極端な精神主義。この問題について、どう考えますか。
ブラック、ホワイト企業という分け方には違和感がないわけではない。だけれども、いまの高校生世代など若者はブラック企業というとピーンと反応する。ブラック企業を端的に見分けるのにふたつのことがある。大量採用、大量退職が発生している会社。これは間違いなくブラック。また、なんで辞めていくかという理由に、滅私奉公を求める。ワタミもそう。過労死した森美菜さんも、最初渡邊美樹社長の信奉者だった。一種の洗脳なんだろうけど。午前四時まで働いて朝の七時からの研修会に半分強制される、その挙句の自殺だ。厚労省が使い捨てにしている企業の調査と電話相談活動を九月一日に行うと発表した。
再就職の問題も深刻だ。そうした人の雇用劣化は異常だ。例えば、現実にうちの組合員でもこんな話がある。
試用期間半年で解雇された。試用期間後は外部監査役になってもらいますという話だったのに。その件で団交を行ったら、雇い止め(契約の解除と会社は言うが)、やっぱり監査役になってもらう。しかし、雇用ではないと言い張る。監査役になるということは役員になるということ。株式の上場のための外部委託なんですと言うが、切られるときは、雇用より立場が弱い。金を払えば将来的に役員にしてやるという犯罪的と言える話の相談も、いくらもあった。犯罪まがいの話は別としても雇用関係であることを避けようとする傾向が経営者の中に広範にある。
プロ野球の選手も労働組合員ですから、労基法上は労働者でなくとも労組法上は労働者です。労働組合というツールが余計重要になってくる。
労基法上の労働者でなければ、労働基準監督署に行っても指導もしてくれない。労基法上の労働者でなくとも労組法上の労働者であれば労働三権が行使できる。
――ブラック企業というと、ITとか外食産業があがりますが、実はパナソニックやキャノンなど大手企業も争議が起きていて、似たようなものでは?
雇用責任を回避するために、違法派遣、偽装請負を含む間接雇用を大々的に利用していることを考えれば、立派に公然たるブラックでしょうね。
企業の側から
損害賠償訴訟
――労働相談で争議化する割合はどうですか。 雇用が厳しいなかで、なるべく企業に残る方向で相談にのっている。追い出し部屋問題で最近話題になっている文芸社の小川さんの問題を例にあげます。
小川さんは営業をやっていたが突然部署替えが行われた。廃棄原稿をワープロで打つ仕事を毎日やらされた。今なら、紙原稿をコピーしてPDFにし、PDFからワードに変換するコンバーターを使えば良いのに最初、コンバーターを使わせなかった。要するに重機があるのにツルハシ一本で道路を作れみたいな話です。
一日中手でワープロ入力させられ、背面で二人の管理職がノルマを課して、ストップウォッチを持ち監視していた。彼は腱鞘炎になった。その後組合の要求で、ワードに変換するソフトを使うことができるようになった。それでもめげないから、今度は会社が何をしたかといえば、それをやらせつつ地下室に押し込んで地下室の掃除をさせられた。そうこうしているうちに、彼がえらかったのは仲間を二人入れて支部結成にこぎつけた。それでいまでもやっている。
去年の夏、追い出し部屋にやられ、営業を外された後、給料を五万円下げられた。三〇万円から二五万円に。夏冬のボーナスは彼だけ一万円。ところが支部をつくって反撃した。こちらの要求をのんで、賃金カット問題は和解しようという機運になり、追い出し部屋もなくす方向に向かっているのだが、労務問題とは別の弁護士をたてて、支部ホームページに難くせをつけて、担当の部長を原告にした損害賠償をうってきた。
損害賠償をかけてきたのは、労務担当の弁護士ではなく、着手金ねらい弁護士だ。背面監視をしていた部長の顔写真をホームページにのせた。すぐにはずさせたが、会社は本訴を起こしてきた。普通はまず下ろしてくれないかと口頭などで言ってくる。それでもいうことをきかなければ仮処分かける。仮処分でもいうことをきかなければ本訴になる。ところが最初から本訴をうってきた。
こっちもすぐに消したが、そうしたら仮処分かけてきた。変でしょ。だから事件二つだから、それぞれ着手金をもらっている。仮処分はさすがに訴えの利益がないということで取り下げた。
これはちょっと極端な例のようだが、追い出し部屋のような露骨なやり方はまだまだある。二〇年前に本当に追い出し部屋があった。今でも例えばリコーとか日本IBMがある。追い出し部屋に押し込むか、荷物まとめてさっさと出ていけとロックアウト的解雇がある。
文芸社の社長もカリスマっぽくふるまっている。金儲けは確かにうまい。社員も信奉者になっている。小川君たち以外は。
雇用から逃げたいという欲求というのはすごく感じる。派遣も結局そうだ。大企業が製造現場で雇用責任を負いたくないということだ。いつでもクビが切れる、事故が起きてもうちの責任ではない。
管理職ユニオンは今でも九割は正社員です。例えばある会社を解雇された。その間、日雇いの仕事なんてやっている例なんてほとんど聞こえなかった。しかし、最近多い。日雇い作業でフォークリフト動かしていて、物壊しちゃって、パナソニックから一〇〇万円の請求を受け、自分で払わされそうになった。そんなことがぽつぽつある。前はそんなことなかった。全般的に生活が大変になっている。
非正規の組織化
と正社員の役割
――非正規が三八%になっているが、労働相談に来る人の正社員と非正規の割合は?
うちは圧倒的に正社員が多い。非正規でも比較的長い契約期間の人が多い。非正規でいうと、五五歳以上の世代が一番多く、五〇%超えている。それは理由がいくつか考えられて、ひとつは定年雇用再延長で非正規になる。それと年金制度が六〇歳から六五歳になる。その間働かなければならなくなっている。非正規が若者の雇用問題を集約的に表現していると言われているがそうとも言えなくなってきている。全世代的に雇用劣化が進んでいる。
――非正規で短期の人はひどい扱いを受けていながら、次から次へと企業を変えていっている。労働相談に来て訴えて問題解決する、そこまでいかない?
それは一般的なユニオンに聞いてもらうと分かるだろう。管理職はプライドがじゃまして地域ユニオンにはいかない。スポットで来る人の相談を受けているのも大事ですけど、それだけでは世の中変えられない。問題企業に入ってそこで組織をつくることが重要だ。待っていたって非常に難しい。
――労働相談に来て問題解決する。それで終わってしまい、労働組合員として残る人が少ないと聞きますが。
うちは残る人が多いですよ。だいたい三人来て二人やめるのが普通。私のところは年間でいうと、職場で複数という例が増えている。だいたい一〇〇人入って、一年経ってやめるのが二割で八〇人は組合員として残っている。一人でも職場を力点においた活動をしていかないとダメだ。
ある職場の話。まず正社員から獲得する。そこから運動を進めた方が強い。比較的雇用関係が強いところにターゲットを決める。非正規の労働者を支えるには正規労働者の支援が絶対必要だ。そういうふうにかじを切らないと非正規の組織化なんてできない。
これは外国人労働者の組織化もそうだった。外国人労働者を集めて、組織ができるかといえばできません。そこを日本人の労働者が組織として支援しますよと担保がなければ絶対自立なんかできないし、組合にならない。これははっきりしている。
――個人でやってもクビ切られて終わりという恐怖感があるから、簡単に組合に結集しない。
スポルトというボーリング場を経営している会社がある。全国に一六ぐらい営業所がある。正社員が四五人。そのうち四三人が組合員。一年以上の契約社員が二〇人ぐらいいる。この人たちを組織化しようとしている。
なぜ組合が出来たかというと、ボーリング場の会社を、二年前にホールディング会社が買い取った。その時に、賃金三割カット、退職金なし、ボーナス半減。三点セットでもって攻撃してきた。組合をつくったが交渉にならない。そこでまるごと管理職ユニオンに入った。
結論的にいうと、一年間すったもんだやった。金目のものをみんな吸い取って逃げようとした。こちらはホールディング会社が本体だろう、出て来い、出てこなければ労働委員会に突き出してやるとしたら、逃げてしまった。今度はボーリング本業でやっていくよという経営者を見つけてきた。非正規の人も組合に入るだろう。全員同じ組合員にする。組合費で差をつければよいことだ。非正規の権利を非正規だけで守ろうとするのは困難だ。非正規の運動には絶対に正規労働者の支援、そして非正規も組織する、そういう立ち位置があればなんとかやれると思う。 (つづく)
8.10〜11
反原発へのいやがらせの歴史展
この手口は権力・企業犯罪
再び繰り返させないために 八月一〇日、一一日の両日、東京・新宿区立区民ギャラリーで「反原発へのいやがらせの歴史展」が開催された(主催:同実行委員会、代表:海渡雄一弁護士)。
一九八六年四月のチェルノブイリ原発事故を契機に盛りあがった反原発運動に対し、一九八〇年代の終わりころから九〇年代いっぱいをかけて、正体不明の何者かによる卑劣きわまる嫌がらせが、明らかに組織的な形で大規模に展開された。
「この人権侵害の特徴は、原発反対運動に係わる個人に対して、大きな組織が結託して、執拗に継続されている人権侵害であるということです。また、個人の自宅や自宅周辺の写真を送りつけるなど、身辺への危害をほのめかす卑劣きわまりないものでした。郵送されて来る文書の中には、明らかに違法に収集されたと思われるまったくの第三者宛の信書や税金関係などの請求書、使用済みの大量のJR切符や運動内部で配布された文書、原子力推進機関の内部資料などが含まれていました」。「現時点で見れば、このような嫌がらせは、電力会社と公安機関、そしてキャンペーン活動のプロ集団が複雑に絡みあった組織による組織的な運動破壊であったと思われます」(海渡弁護士の呼びかけ文より)。
今年の秋以後の原発再稼働、新増設の動きの中で、再び反対運動破壊のための嫌がらせ、妨害、謀略が以前とは異なった方法・手段で吹き荒れる可能性は否定できない。この「歴史展」の目的は、そうした危険性への認識をとりわけ新しく反原発運動に加わってきた人びとと共有し、嫌がらせ・謀略への社会的反撃を準備するためである。
この「歴史展」には二日間で一〇〇〇人を大きく上回る人びとが参加し、狭いギャラリーは人があふれる状態だった。一九九〇年代前半に頂点に達した反原発運動への妨害・嫌がらせを経験した世代だけではなく、二〇一一年以後に反原発・脱原発の運動に参加し始めた若い世代も数多く参加し、何者かが反原発運動の活動家を脅し、攪乱・分断させるために送りつけた手の込んだ資料に見入っていた。
相手のやり方
を知る必要
八月一〇日、一一日とも午後二時から、海渡雄一弁護士、原子力資料情報室の西尾漠さんなど、この卑劣きわまる嫌がらせ・謀略の渦中に巻き込まれた被害当事者が証言した。八月一一日には当時、まだ小さかった子どもと一緒の写真などを送りつけられた経験を持つ、原子力資料情報室の澤井正子さん、「もんじゅ」西村裁判の原告西村トシ子さん(一九九五年一二月のもんじゅナトリウム漏れ事故で社内調査にあたり謎の死を遂げた動燃総務部次長・西村成生さんの連れ合い)、海渡弁護士などが発言した。飛び入り参加した山本太郎参院議員も発言。
海渡弁護士は、この大規模な嫌がらせ・謀略の原点が三重県南島町(現南伊勢町)の芦浜原発(一九六三年建設計画発表、二〇〇〇年建設計画白紙撤回)反対運動にあったことを紹介した。そしてこの嫌がらせについて「費用は電力会社から、ないしそのキャンペーン費用の一部が流用された可能性」「活動のための情報集めは公安機関と電力会社が行ったと考えられる」「活動の全体の指揮や封入物の企画、製作には広報の専門家の関与が疑われる」「嫌がらせや手紙の投函は全国さらに海外に派遣されていた電力や原子力機関の者らが動員されていた」と推測した。
そして今回の展覧会の目的について「このような活動を未然に防止するために、過去の嫌がらせの歴史を多くの市民に知ってほしい。知っていれば攪乱される可能性は少なくなる」と語った。
なお、何者かがわが新時代社の名を騙って、芦浜原発反対運動に対して高飛車な手紙を偽造名刺とともに送りつけた事件を明らかにし、糾弾した週刊「世界革命」紙(「かけはし」の前身)一九八九年七月三一日号のコピーも、展示された。(K)
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